その他あれこれ

ソレノドン

今朝の朝日新聞(2012年9月20日)によると、絶滅したと思われていたソレノドン Solenodon という動物が、キューバで発見されたそうです。

http://www.asahi.com/science/update/0919/TKY201209190661.html

6500万年前から、骨格がほとんど変わっていない「生きた化石」で、キューバとハイチに生息する哺乳類。トガリネズミの仲間。

哺乳類でこれほど古い歴史をもつ動物は、少ないと思いますが、それにしても、6500万年て、気の遠くなるような年月ですね。 

わたしは、恥ずかしながら、これまで、キューバやハイチにどんな動物がいるのか、ほとんど知りませんでしたが、このソレノドンは、 なんとなく、オーストラリアなどにいる動物と共通点があるような感じがします。どういうルーツをもつのか、興味深いところです。

ウィキペディアの「キューバソレノドン」のページをみると、上の発見は今年の3〜4月のことだそうです。 一般メディアへのプレスリリースが遅かったのですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/キューバソレノドン

新種のサル、コンゴで発見

数日前の2012年9月13日、"New monkey discovered" というニュースが、いくつかの英語ニュースサイトで報じられ、わたしはそのことをFaceBook を通じて知りました。

たとえば、CNNの記事
http://edition.cnn.com/2012/09/12/world/africa/dr-congo-new-monkey/index.html

(現時点では、複数の日本語サイトにも載っています)

発見されたサルは、現地の人々にLesula とよばれているもので、現地の人々には知られていたが、それ以外の人間の目に触れたのは初めてとのこと。

場所は、アフリカのコンゴ民主共和国(République Démocratique du Congo)中央部のロマミ川流域森林地帯で、これまで生物学的調査の手がほとんど入らなかった地域だそうです。

これだけ、地球上の多くの場所が映像化され、ウェブ上で検索できる時代に、まだこのようなことがあったとは驚きだ、と、上記CNNの記事。

サルの新種が発見されたのは、28年ぶりだそうです。

アメリカとコンゴの研究チームが、2007年6月に偶然、このサル(現地の人に飼われていたもの)をみつけ、その後、本当に新種であるのかどうか、形態、行動、生態、遺伝学などから、3年かけて検証したそうです。

そして、そのサルを、Cercopithecus lomamiensis  と名付けました。

元の論文は、2012年9月12日、 オープン・アクセス・ジャーナルのPLos One  に掲載。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0044271#

アフリカでは、密猟が後を絶たず、多くのサルも絶滅の危機に追いやられていますが、発見者とコンゴ当局は、これを機会にこの地域を国立公園にして、生物多様性の保護を促進したいとのこと。

 (AM)

最近のニュース2件

最近、新聞に載ったニュースを2つ。

「銀座周辺に鳥虫140種ー資生堂、徒歩調査で確認」
朝日新聞大阪版 2012年8月29日夕刊 
http://www.asahi.com/news/intro/TKY201208290538.html?id1=2&id2=cabcaida 


「関空沖にスナメリの楽園 禁漁でエサ豊富、「奇跡的」」 
朝日新聞大阪版 2012年9月5日夕刊
http://www.asahi.com/eco/news/OSK201209050063.html


「都会」のような場所でも、情況によっては野生動物の生活に適した環境になる場合がある、という例ですね。

(AM)

ユクスキュルの『生物から見た世界』

一度、この話をしたいと思っていました。ユクスキュルの『生物から見た世界』。

PICT0138

(左)ユクスキュル/クリサート著、日高敏隆・羽田節子訳、岩波文庫、2005。
(右)ヤーコプ・フォン・ユクスキュル ゲオルク・クリサート
   日高敏隆・野田保之訳、思索社、1973。

同じ本です。

原著は、ヤーコプ・フォン・ユクスキュル Jakob von Uexküll (エストニア生まれの動物学者)が1934年に出版したもの。80年近く前に書かれた本です。

古い本ですが、内容は、

生物は機械ではなく、それぞれ、主体として世界を見て(感じて)、その世界のなかで生きている、

つまり、 それぞれの(種の)動物は、「客観的」あるいは物理的にどういう物がまわりに存在するか、にかかわらず、自分にとって意味のあるものだけを見(感じ)、それがその動物の世界を作っている、

ということを言っています。

例として、本の冒頭に出てくるのは、ダニの世界ですが、

ダニは、目も見えず、嗅覚と温度感覚にたよって、温かい哺乳類の上に落ち、そこで触覚にたよって皮膚の毛のない場所をみつけて、そこに食い込んで血を吸う、そしてその後、地面に落ちて産卵して、死ぬ、それが彼女らの一生です。

つまり、わたしたち人間に見えるいろいろなもの、あるいは、「客観的に」そのあたりに存在するもの、たとえば、哺乳類の形や大きさ、その動物が通ってくる道のようすなど、ダニにとってはなんの意味もなさず、ダニの世界には存在しない、ということです。その哺乳類の「臭い」と温かさ、皮膚のようすが世界のすべてなのです。

人間からみて貧弱であるかどうか、は問題ではありません。

そのほか、ハエや、ウニや、ミツバチなど、さまざまな動物の例があげられています。

ユクスキュルは、「客観的にまわりにあるもの」を Umgebung (「環境」)、その動物が見ている世界を Umwelt (「環世界」(旧訳では「環境世界」)として、区別しています。

(現代の日常的なドイツ語ではそれほど区別がないようだが)

PICT0140

写真は、ミツバチの環境(上)と環境世界(下)を示した図(『生物から見た世界』、思索社、1973より)

「それぞれの動物」といいましたが、それには当然、人間も含まれます。

つまり、わたしたちが見ている世界は、あくまでも人間が見ている世界(あるいは、その人が見ている世界)であって、客観的でもなんでもなく、他の動物が見ている世界はそれとはちがうのだ、ということになります。

このような世界のとらえ方は、動物学に大きな影響をあたえただけでなく、「環境」とは何か、という本質的な問題に迫るものです。

この見方にたてば、「環境」とは、人間が見ている世界、人間にとって意味のある世界、ということになります。

実際、ヨーロッパでは、このユクスキュルの考え方にもとづいた「景観学」(landscape studies)という学問が発達してきました。この話は、また別の機会にくわしく述べたいと思います。

ここでは、他の動物のことを人間を基準に考えてもわからない、つまり、それぞれの動物にはそれぞれの世界があるのだ、ということを言いたいために、ユクスキュルの話をしました。

ユクスキュルが、このような考えを最初に発表した人だからです。
(ローレンツらが確立したエソロジー(動物行動学)も基本的に同じ考えに立っています)

すでに読んでいらっしゃる方も多いとは思いますが、まだの方は、ぜひごらんください(2005年版のほうが少し読みやすいでしょう)。

(AM)




北アメリカ大陸を席巻するコヨーテ

コヨーテという動物をご存じでしょうか?


(写真:Jim Peaco - NPS Photo )

北アメリカ大陸に住むイヌ科動物で、オオカミに少し似ています。
学名を Canis latrans といいます。

このコヨーテに関して、最近、Nature に興味深い記事が出ました。
Sharon Levy, Rise of the coyote: The new top dog,  Nature 485, 296-297 (17 May 2012)
http://www.nature.com/news/rise-of-the-coyote-the-new-top-dog-1.10635

以下に内容を紹介します。

コヨーテは、北アメリカ大陸に土着の動物で、先住民のあいだには、この動物にまつわるたくさんの神話や物語が伝承されています。

ヨーロッパ人入植者たちは、先住民とは異なり、この土地に土着の動物たちを攻撃し、オオカミは絶滅寸前まで減りました。

しかし、コヨーテは、人間の攻撃を生き延び、繁栄してきました。

実際、1700年以前には、コヨーテは大陸の中西部平原だけに生息していましたが、その後、生息範囲を広げて、現在では、北アメリカ大陸のほぼ全土に生息し、都市部にもみられるようになりました。

つまり、人間が増えて自然に手を加え、あるいは動物を直接攻撃するようになると、多くの動物は減ってしまうのですが、コヨーテは、そのような条件下で、逆に増えてきたのです。

では、なぜそのようなことが起こっているのでしょうか?

アメリカの研究者らの最近の研究によると、コヨーテは適応力が非常に高く、人間が起こした環境の変化を利用してきました。

過去200年のあいだに、人間(開拓者)がオオカミを追いやった後に、コヨーテは、オオカミがかつて住んでいた土地に住み着いて、オオカミがエサとしていた動物をエサとして生きることができました。オオカミよりも繁殖速度が速く、多様なエサを利用できるので、有利だったでしょう。

さらに、北アメリカ大陸の北東部、つまり、昔はコヨーテが住んでいなかった土地のコヨーテは、中西部のコヨーテより身体が大きいことが知られていますが、

最近の遺伝学的調査によると、北東部のコヨーテは、五大湖付近のハイイロオオカミCanis lupus の遺伝子をもっていることがわかりました。

つまり、西から東へ、コヨーテが勢力拡大していく途上で、オオカミと交雑し、雑種を形成してきたということです。オオカミは数が減っていて、同種の配偶者をみつけるのが困難であったため、コヨーテと交雑したのではないかと、考えられます。

そして、身体が大きくなったコヨーテは、大きなエサ動物を倒すことができるので、いっそう有利になったのでしょう。実際、北東部のコヨーテは、南西部のコヨーテの5倍の速さで生息地を広げているそうです。

現在では、ニューヨーク市やワシントンD.C.などの大都市部で、人間が住む場所の近くでもコヨーテがみられるようになっています。これに関しては、YouTubeなどに多くの映像があります。

さらに、最近では、イヌ Canis familialis との雑種も知られています。

結局、オオカミよりも適応力が高く、なんでも食べて、どんな環境でも生きられる、いわば「いいかげんな」コヨーテが、生き延びてきたといえるわけですが、

生態学的には、オオカミの遺伝子をもつ大きなコヨーテが、北アメリカ大陸の絶滅危惧種のカリブーなどにとって脅威となる危険や、雑種になったことによって行動や生態が変化する可能性が指摘されています。

一方で、大きなコヨーテは、増えすぎたシカを減らすために役立つのではないか、という見方もあるようです。

いずれにしても、コヨーテは、人間の圧力によって他の動物が減ったときに増えたという、貴重な例であり、これによって、北アメリカ大陸の生態系がかなり変化することが予想されます。

(AM)





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