日時:2011年11月26日(土)13:30〜15:30

場所:焼肉屋いちなん3階
   京都市左京区一乗寺北大丸町51

ゲスト:中田兼介(なかた けんすけ)さん
    (京都女子大学)

参加者:5名

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いわゆるクモの巣(円網)の大部分が、正確な円ではなく、下側の半径が上側の半径よりも大きい、

つまり、円が下に引き延ばされたような形をしています。

そして、網の主のクモは、網の中心で、下を向いて「逆さまに」、止まっています。

そういわれてみれば、そんな気がしますね。

では、なぜ、クモの円網は真ん丸ではなく、「いびつな」形をしているのでしょうか?

そして、なぜクモは下を向いているのでしょうか?

クモは、網に餌の昆虫などがかかるのを待っています。
そして、餌がかかると、網を伝ってそこへ歩いて行って、捕まえます。

しかし、餌が網のどこにかかるかは、かかってみなければわかりません。

であれば、餌がどこにかかっても、最短時間で到達できそうな場所で待ち伏せするのが、得策でしょう。

そのような仮定のもとに、網のどこで待ち伏せすれば、餌の場所まで最短時間で行けるか、理論的モデルで計算してみると、

網の端まで到達する時間が上下で同じになるように網に止まると、最短時間になる、という結果になりました。

実際には、クモが下方向に移動する場合、重力があるので、上方向に行くよりも速く目的地(餌の場所)に到達できると考えられます。

このことを考慮に入れると、クモは、円の中心よりも少し上の位置にいると、ちょうどよいことになります。

別の言い方をすると、網の中心が円の中心よりも上にあればよい、つまり、下の半径を長くすればよいことになります。

そして、最初から下を向いていることで、広い下方向にある餌を捕まえやすくなる、と考えられます。

ゴミグモという比較的大型のクモは、このようなパターンの網を作って、下向きに止まります。

ところで、これとは異なる形の網を作るクモも、いるのでしょうか?

数は少ないですが、上を向いて止まるクモもいます。
たとえば、同じゴミグモ属のギンメッキゴミグモ、ギンナガゴミグモという種類がそうです。

その場合、網は、上側の半径が大きい形をしています。

小さなクモで、下へ走る速度があまり速くなく、上へ走る速度とあまり変わらない場合、網にかかった餌が転げ落ちてくるのを待つほうが効率がよい場合があります。その場合、上方向にかかった餌は近づいてくるし、下方向の餌は逃げて行くことになります。

であれば、クモは、網の下のほうに、上を向いて止まっているのが、効率がよいことになります。

その他、向く方向が定まっていないクモもいるようですが、このタイプについては、まだ研究がすすんでいないとのこと。

クモという動物は、昆虫などに比べて、現在まで、あまり研究がされていないそうです。

人間にとって、あまり実用価値または実害がないせいでしょうか。

クモの糸を繊維として使う試みは、古くからあり、フランスのルイ14世に、クモの糸で編まれた手袋が贈られた、という記録が残っているそうです。

クモの糸はたいへん引張り強度が高いらしく、現在でも、糸を工業利用する研究は行われているようです。

しかし、カイコ(=糸を大量に生産するよう品種改良された家畜)とは異なり、野生動物のクモを飼育しても、実用になるほどの大量の糸を生産することは、困難でしょう。

ゲストの中田さんからは、某テレビ局の番組では、クモがすべて上を向いた構図でクモの写真が使われていて、がっかりした、とのコメント。
ある有名な動物写真家の写真だったらしいのですが、おそらく、番組制作者が、「虫は上を向いているはず」と、写真を逆さに使ったのではないか、と想像されます。

それとは逆に、参加者の一人からは、絵画に描かれているクモの巣は、たしかに、下の半径が大きく描かれているものが多い、というコメントがありました。画家はよく観察しているのでしょう。

(AM)
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